大阪市鶴見区わらべ学童

指導員つれづれ
第111話
カレーライス

子ども達が成長するために不可欠なものの一つに「自信」があります。

「自信」がないと、成長のステージをあがる時、多くの時間を要します。

「自信」がないと、些細なことにも動揺し、進むべき方向を見失います。

「自信」がないと、他者の頑張りを認めることができず、自分よりもさらに弱い相手を見つけると攻撃してしまいます。

「自信」と「プライド」は違います。

「自信」はないのに「プライド」は高い・・・という生じやすいアンバランスが、子ども達から素直さを奪っていきます。

「プライド」が高いのは決して悪いことではありませんが、失敗できなくなるあまり自分ができる世界やわかる世界でしか行動しなくなったり、新しいことに挑戦できなくなったりして、世界が広がっていかない危険をはらんでいます。

「自信」を育てるのが、様々な成功体験の積み重ねであることは、以前に何度か書かせていただきました。

ある小児精神科医の先生は「いま日本の子ども達は自己肯定感が育っていない。小学生の4人に1人しか自分は素晴らしいと思えなくて、中学生はもっと減って6人に1人くらい、そして最終的に高校3年生で“自分に自信が無い”と答える子が95%くらい」と話しておられました。

これは日常生活の中で、子ども達がなかなか自信を持てないということではないでしょうか。

江戸時代、諸外国の人達が初めて日本を訪れ、その子育てを見た時、「日本の子育てはすばらしい。無条件の愛情を持って育てているから子ども達は非情に穏やかで充分自信に満ちて育っている」と、根源的な愛情を注がれつつ育てられていることに驚いたそうですが、なぜ現在のような状況になってしまったのでしょう。

日本は元々「謙遜の文化」を持ち、自分に対する評価は低いのが一般的です。

ところが近年、子育ての中で「早くしなさい!」「何してんの!」「いい加減にしなさい!」と、否定の言葉が増え、さらに自己評価が下がる傾向にある事を指摘する研究者は少なくありません。

また、「自分が素晴らしいと信じられる体験」がなければ、言葉だけで「本当の自信」や「自己肯定感」にはつながらない事を、わらべ学童で関わった多くの子ども達から教えられました。

わらべ学童では6年間、自分たちが食べるごはんを作る、「手作り給食」の経験を積みます。

上の子の中には、このような手作り給食を楽しみにしており、「次は、何作ろう!?」と自信を持って、新しいメニューに挑戦する子もいますが、これはわらべ学童での給食作りや、その後の高学年活動を経て、少しずつ子どもたちの中に根を張っていく活動の積み重ねの結果です。

サマーキャンプのプログラムでは、1・2年生だけでカレーライス作りに挑戦します。

出来上がったおいしいカレーを前に、「自分たちだけで作り上げた」という体験が、自信につながる瞬間に立ち会うことができます。

包丁の持ち方や使い方(動かし方)、材料の押さえ方など順を追って指導し、「さぁ!やろか!」と言うと、多くの1・2年生は尻込みしたり、ドキドキして緊張した表情を浮かべます。

すると、「頑張らんと、お昼は白ごはんだけやで〜」と、やんわり脅迫されます。(笑)

しかし、いざ挑戦する場面では、真剣な顔になって、材料と包丁に向き合います。

多少の失敗は気にせず、少しぐらい形が悪くても、大きくてなってしまっても、「大丈夫、大丈夫」「ドンマイ、ドンマイ」と声をかけていきます。

集中して切り終えたとたん、子ども達の表情ががらりと変わり、緊張から解放されると同時に、「こんな難しいことをやり遂げた僕って(私って)すごい!!」を実感します。

みんなが真剣に切った材料を合わせて作ったカレーライスは、同じ材料を使っているのに、班毎に微妙に味が違い、すごくおいしくなります。

そうすると子ども達は、「自分がいなかったらこれが出来なかったのかも・・・」と「かけがえのない自分」を発見する・・・そんな体験もします。

現代の子ども達には「共感力」が乏しいと言われますが、みんなで作り、友達や親御さんが「おいし〜い♪」と言って食べてくれた・・・そのことが「共感・共有の体験」にもつながります。

この「リアルな体験」は、本人がドキドキしながら経験するからこそ値打ちがあるのです。

将来苦しいこと、つらいことに出会ったときに、昔体験したことは忘れても「自分は絶対出来る」と信じられる「自信の土台」が出来るのです。

そのためにわらべ学童のサマーキャンプには、できるだけ大人が手も口も出さずに、子ども達が頑張る場面が用意されているのです。

食育の第一人者、料理研究家の坂本廣子氏は、「食育は、単におなかいっぱいに食べたり、何が体に良いか学習したりすることだけではなく、子ども達がリアルな体験を通じて、子ども自らが自分のすばらしさを発見する経験をする場と考えたい」と語ります。

「たかがカレーライス、されどカレーライス」・・・すごく深いと思いませんか?

by.Sarusen


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