第116話 |
毎年6年生を送り出すときに、必ず2つの事をメッセージとして贈ることにしています。
「仲間や周りの人々の気持ちを理解できる、思慮深い大人を目指して下さい。」と「夢中になれるものを しっかりとつかみとって下さい。」の2つ。
「夢中になれるって素晴らしい!!」そんな出来事が、立て続けに起こった1週間でした。
高学年の女の子が突然、今年度からコーチとして関わらせて頂いている地域のフットサル・サークルに入りたいと言い出しました。
動機を尋ねると、はじめは「運動不足やねん(笑)」とお茶を濁し、「嘘でもいいからフットサル上手になりたいからって言おうや〜」なんてツッコまれていたのですが、最後にこぼれた「夢中になりたいから・・・」という本音にドキリとしたのです。
高学年女子ともなれば、学童を休みがちになる子も珍しくなく、学校の友達と友情を紡ぎながら、男子より一足早く、中学生になる準備をする段階という理解をしていました。
しかし、実際に耳にする過ごし方は、「楽しい」や「おもしろい」ことはたくさんあるけど、「一生懸命」や「夢中になる」ことは、なかなか見当たらないことを物語っていました。
それが、どうしても中途半端に楽しいことに流されているように見えてならず、危機感を募らせていました。
週末の城東福祉まつりでは、今年は4名のちびっ子力士が、相撲大会に出場しました。
相手の力もわからない真剣勝負に果敢に挑んでいく姿、自分より体の大きな子に思い切りぶつかっていく姿に感動し、声を枯らして応援し、負けて泣きじゃくる子に寄り添う・・・そんな熱い時間を過ごしました。
最後の出場となった6年生から下の学年へと、そのバトンはしっかり受け継がれ、涙目ながら「来年も出るか?」と問われ力強く頷く様子に「小さくない変化」を実感しました。
勝つことだけがすべてではない事を体験し、くじけない心が育つ瞬間に立ち会わせていただいた気さえしました。
次には、そんなわらべ学童での生活を既に終えたOBから、野球での大学進学が決まったとの報告がありました。
高校時代、理不尽とも思える状況に挫折し、苦しんだ時期もありましたが、親御さんの忍耐強い働きかけで立ち直り、やはり「夢中になれるものは野球しかない!」と、ひたむきに歩んできた彼。
「練習に来ないかって言われて行ったら、すぐに推薦出すから来てくれって言われて・・・」と、晴れやかな表情で話す姿は、まさに秋空のように爽やかでした。
さらに、その妹さんであるOGも、中学で出会ったバレーボールで名門高校への進学が決まったとのこと。
この兄妹も、わらべ学童時代は、運動会やキャンプやクリスマス会を、思いっきり楽しんできた子どもたちでした。
また二人とも、両親や周囲の方々への感謝を忘れていないことが素晴らしかった!
夢中になりストイックになり、多くの壁や限界、さらに高いレベルにある人々との出会いが、彼らを謙虚にさせ、身をもってそのことを知ったのだと思いました。
改めて、子ども時代の「熱中体験」や「夢中で楽しむ体験」がどれほど大切なのか、彼らの成長のプロセスが教えてくれているようです。
前出のフットサル・サークルの練習に、仕事で遅れて参加せざるを得なくなり、教え子たちに連絡すると、真っ先に返信してくれた子がいました。
紆余曲折がありましたが、今は真剣に仕事と向き合い、お客さんの笑顔のために、夢中になっている彼は、結局仕事で参加できませんでした。
その彼が中学時代につけた、OB達のフットサル・チームの名前は、「CLUB EMPOLGADO」といいます。
ポルトガル語で、「夢中」という意味です。
さらにそのチーム・ユニフォームの背中には「DVERDY(=楽しもう!)」、右腕には「AMIGO(=友だち)」とも、書かれています。
くしくも彼らは、わらべ学童時代に学んだ大切なことを、1枚のユニフォームに込めてくれていたのでした。
そう、わらべ学童の生活の中には、インスタントでできない、また他ではなかなか手に入らない、「友だちと共通の本物経験」や「とことん楽しむ経験」、何よりも没頭し「夢中になれる経験」が詰まっています。
3つの経験の大切さを、これからも発信していく学童保育でありたいと強く思いました。
今年、卒所式のメッセージは3つ贈ることになるかもしれません。
「仲間や周りの人々の気持ちを理解できる、思慮深い大人を目指して下さい。」と「夢中になれるものを しっかりとつかみとって下さい。」
そして、「道に迷ったら、あなたの前を歩くOB・OGの背中を探してみて下さい。」
by.Sarusen