大阪市鶴見区わらべ学童

指導員つれづれ
第38話
責任感

昨年まで、「リーダー旅行」というタイトルだった高学年のイベントが、「4年生旅行」と、ネーミングを変えました。

取り組むのは、現4年生10名です。

4年生は、プレ企画として夏休み中にお出かけもし、電車の切符の買い方や、乗り換えの仕方、ミーティングを開き、みんなが納得する方向を探ったりする「練習」を、繰り返し行なってきました。

指導員もまた、子ども達がしでかすであろう大小様々な失敗を想定しながら、成功体験に結びつくような作戦を考え、その中にも最大限に「ドキドキ体験ができる」余裕は残しておこうと、秘密裏に準備を進めてきたのでした。

その準備の期間中、指導員が着目してきたことの1つが、「責任感」でした。

この責任感というのは、本当に厄介なシロモノで、「おい!ちゃんと責任持ってやれよっ!!」などと、怒ってみたところで、身に付くものではありません。

これこそ、成功体験の積み重ねが大切なのです。

できたところから順に、できた子から順に、「認めて」そして「ほめて」を繰り返しながら、みんなのものにしていくのです。

まずは、「これは、自分が果たすべき役割なんだ」と認識することからですが、これがなかなかうまくいきません。

3年生までは、何かあると、必ず原因を自分以外のことに求めて、もっと言えば「〜のせい」にしながらやってきたのですから、いきなり「ボクの(アタシの)せいです!」とはならないのです。

責任を持つのは「ボクかな・・・」「アタシかな・・・」と、自分であると認めることから始まります。

それには、勇気もいるし、「ごめん・・・」って言えるか、「でも・・・」と「だって・・・」をわきに置けるか等々、葛藤が付き物です。

指導員は、その葛藤の先にある、「主人公としての自分」を見出し、本当の自主性を引き出していきたいと考えています。

期間中は、何度も何度も、「誰が行く旅行なのか?」「誰のための旅行なのか?」と、問いかける日が続きました。

公園へ出る間も惜しんで、必死に頑張る姿が見られていました。

9月に入り、短縮授業が終わると、各小学校は運動会の練習が本格化し、以前に比べると、放課後の時間がとても短くなっている子ども達は、徐々に余裕を失い始めますが、ようやく「ボクが!」「アタシが!」という気持ちが、前に出てくるようになりました。

習い事で抜ける子が、一生懸命作業した後、みんなに「ごめん!抜けるわ!」と言えるようになりました。

反面、旅行に対する不安や緊張から、歯止めがかかるまでふざけてしまう子、やっているように見えて、実は他の子の陰に隠れて、目の前の作業のことすら把握できていない子も目に付き始めました。

今回、子ども達は「議長」「書記」「案内」「切符」「時計」の5つの係を考えましたが、担当する子ども達を見ると、当然、「自信がある子が前、自信がない子は後ろ」という構図になってしまっています。

これでは、役割を把握した子を中心に難なく事が進み、係についても活躍の場がない、ただただ、後ろをついて行くだけの子が出てしまうのではないかと思えてなりません。

しかし、準備期間内に解決の時間は残されておらず、そこを指導すればモチベーションさえも縮んでしまうように思えたので、指導員で話し合い、名付けて「役割コンバート作戦」を実行することにしました。

全部の役割をみんなが経験できるように、担当を時間で区切り、次々に役割が変わるというものです。

自分の担当時間帯には、役割に応じた責任を持って行動することが求められ、「慣れ」もなく良い緊張感を持続させ、人任せにはできないムードをつくっていくことが狙いでした。

前日に集めてミーティングをした時の様子はと言うと、まさに「うれしいと不安が半々!!」と、4年生の顔に書いてありました。(笑)

表情はにこやかながら真剣そのもので、しっかり指導員の意図をくみ取ろうとしていました。

当日の朝、「さぁ!行くでぇ!」と晴れやかな笑顔と、わずかに漂う不安感を感じながら、「昼まで頑張ろう!」と、午前の担当につき、出発しました。

私学に通う2年生の男の子でさえ、登校やわらべの登所時に日常使っている道中なのですが、初体験の4年生は、戦々恐々で進んでいきます。

ようやくたどり着いた奈良公園を散策したり、美術館を訪ねたりしながら、なんとかプログラムに沿って進めてきた旅行でしたが、ついに立ち往生の瞬間がやってきました。

夕闇が迫る駅前のバス停で、宿の近くに停まるかどうか確認することができず、1時間に1本しかないバスを、なんと!やり過ごしてしまったのです。

5時に到着する予定が、次のバスは、5時40分にならないとやってきません。

「プログラム通りに進める」という自分達の目標が彼らの足かせとなり、「なんで急いで聞きに行って、確認せんかってん!!」と、案内係だけを責めるピリピリした雰囲気が出てきたので、見かねて声をかけました。

「さるせん、案内係だけが悪いと思わんなぁ・・・」「えっっ・・・!?」「みんな案内係の立場になって考えてみ?」「みんなに早よ聞いてこい!とか言われて焦るやろ?」「聞きに行かれへんかった時だって、ボクが、アタシがって考えてみ?頑張れって言ってあげればよかった、一緒について行ってあげればよかったって、思われへんかな?」「思う・・・」「それなら、案内係責めてんと、もう次の方法考えよう。これは無駄な時間じゃなくて、チャンスなんやで!」

その後、道端での話し合いは、「どうする?・・・・」「宿まで歩こうか・・・」「タクシーで行こうか・・・」と、40分以上続きました。

結局話し合いに、時間がかかりすぎ、次のバスを待つ方が早い・・・という結論に達しましたが、次のバスが来たのを見つけたみんなの顔・・・。

勇気を奮ってバスに乗り込み、行き先を確認する案内係。

「がんばって!」と、その様子を、かたずをのんで見守る仲間たちの姿。

運転手さんに確認でき、「停まるって♪」と嬉しそうに報告しにきた案内係の笑顔・・・4年生10名が力を合わせて、最大の難所を乗り越えた瞬間でした。

宿を目の前にして、全員で「よっしゃーっっ!!」と叫んで、一気にテンションを上げる子ども達。

とても疲れたと思いますが、各自が責任を果たし、目標を達成し、とても満ち足りた表情をしていたのが印象的でした。

2日目のプログラムを終え、学童に戻ってきた時に、一人ひとりに「主人公になれたか?」とたずねると、自信たっぷりにうなづいていました。

失敗やミスを乗り越え、「自分たちでやりきった旅行」は終わりました。

自分が経験した担当は、フォローまで考えるようになったので、「役割コンバート作戦」も成功したのではないかと思います。

頭と体をしっかり使い、目と耳と口をフルに働かせることを経験した子ども達は、心なしか逞しく、そしてチョッピリ賢くなったように見えました。(笑)

by.Sarusen


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