第76話 |
1年生がようやく学童の生活に慣れてくるこの時期、少しずつですが、人の話をしっかり聞けるようになってきました。
わらべ学童の保育の中で、こだわっている事の一つに、「聞く力を育てる」事があります。
聞く力がいかに大切かは、子どもたちが、育ってきた過程を振り返れば、誰の目にも明らかです。
子どもたちは、お母さんのおなかの中にいる時から、聴力の発達と共に、愛情がたっぷり込められた言葉を、たくさん聞きながら育ってきました。
学童期の子どもたちが身に付けた知識や能力、特に言葉に関わる能力のほとんどは、他者から聞いたり、感じたりしながら獲得してきたと言えます。
しかし、今、世の中はアピールの時代。
個々が主義や主張、自分の意見を、いかに効率よく、いかに合理的に、相手に聞き入れさせるかにウェイトが置かれているように思えてなりません。
個々が集団から大切に扱われる事が少ない世相を反映してか、書店には話し方の本が並び、巷では、「話し方講座」なるものも盛況のようですが、「聞き方講座」は、ほとんど聞く事がありません。
お互いに相手の話を「聞き合う」ことは、その時の状況や相手の気持ちを分かち合い、共感を広げると同時に、相手に聞く姿勢を示すこと自体が、「あなたのことを大切に思っています。」と伝え合うことです。
もし家庭の中で、相手をコントロールしようという意図を含んだ話し言葉が優先され、家族が互いの言葉に耳を貸さずにいたなら、その言葉は次第にトゲトゲしくなり、声はだんだん強く、そして大きくなってしまうのではないでしょうか?
社会問題として取り上げられることもある、「サイレント・ベビー(泣かない赤ちゃん)」だって、赤ちゃんの声が、聞き届けられなかった結果であると言えるのです。
「聞く力」を育てるには、「聞かれる経験」をたくさん積むことだと考えています。
「聞かれる経験」は、発言者として認められる事、肯定されることにつながります。
「聞かれる経験」をたくさん積むことで、当然話す機会も増え、話す事、思いを伝えるだって上手になっていきます。
受け止められた経験は、受け止める経験、ひいては聞く力や話す力につながっていくと思うのです。
片手間や上の空ではなく、尋問でも詰問でもない・・・「聞く」。
どうやら私たち大人が、その鍵を握っている事は、ほぼ間違いないようです。
by.Sarusen