指導員つれづれ

☆第10話「ぶつかり合いの中から」☆


秋の祭りで行なわれる「ちびっこ相撲」に、毎年わらべ学童の子ども達が出場しています。

出場者の多くは男の子たちですが、時には女の子も出場することがあります。

クラスは、「幼児の部」「低学年の部」「中学年の部」「高学年の部」の4階級があります。

相手の力がわからない状況でのぶつかり合いほど、勇気がいるものはありません。

また、ぶつかり合って遊ぶ経験が極端に少ない「現代っ子」達にとっては、バーチャルな世界ではありえない緊張感と、時には痛みも伴うリアルな体験を味わう場となっています。

活きの良い「やんちゃ坊主」ばかりが出場するわけではないので、出場を直前まで悩む子が多い事を見ても、大人が考えるよりはるかにハードルが高いことがわかります。

今年は、わらべ学童から15名のちびっこ力士達が出場しました。

その中でも、特に印象に残った取組が、わらべ学童同士の同門対決となった「中学年の部」と「高学年の部」の3位決定戦でした。

「中学年の部」は、「引っ込み思案で初出場の4年生の男の子」対「過去には入賞経験ありの元気な3年生の男の子」です。

お互いいつもは仲良く遊んでいる者同士・・・どっちにも勝って欲しいと思いますが、そんなわけにもいかず、「やりにくいやろなぁ・・・」とお互いの気持ちを考えるからこそ、かける言葉も少なくなります。

「手は抜くな!相手に失礼や!」土俵で睨み合う二人に、そう声をかけました。

行司の声で激しくぶつかり合い、押し合い、見ている人も力が入る熱戦の末、4年生の男の子が勝利しました。

ぐっと悔し涙をこらえる3年生に「相手がウチの4年で良かったね。来年も出て、下の子の挑戦受けたってな」と話すと、「うん」とうなづいていました。

「高学年の部」の3位決定戦では、「今年最後の出場となる6年生の男の子」対「去年中学年の部で優勝した5年生の男の子」が対戦しました。

さすがに5・6年生ともなると、力の入った立ち合いで、お互いに一歩も引きません。

顔を真っ赤にしながらの大相撲です。

6年生の子が勝利した後、かなり押し込んでいただけに、5年生が涙を流していました。

「6年はな、絶対に負けたらアカンって、ものすごく緊張してたんやで。おまえも手を抜かんかってえらかったな。いい経験できたな。来年も絶対出ような。」

うんうんとうなづく頬を、何度も何度も涙が伝います。

周囲の子が、「ようがんばってたで」「おしかったなぁ」「かっこよかったで」と、口々に慰めたり励ましに来てくれました。

全力でぶつかり合う潔さ・・・勝負は勝ち負けではないなと思いました。

「本気になれるかどうか」なのではないかと思うのです。

どちらの3位決定戦でも、勝った男の子は、日常すごく優しいお兄ちゃんです。

しかし彼らは、下の学年を相手に、手を抜きませんでした。

下の学年や、自分より体が小さい子、女の子・・・とても気が引ける相手だと思いますが、彼らは「勝ちたい」という気持ちだけで、相手と向き合ったのではないのです。

プライドや負けん気だけではない気持ち・・・、相撲というぶつかり合いの中で、「本気」をしっかり下の子に示してくれたのだと感じました。

負けた子も、「この子が相手なら」と納得いく真剣勝負の経験をし、泣き止んだ表情には、清々しささえ感じました。

入賞してメダルを手にした子の表情はとても明るく、輝いて見えました。

でもその値打ちは、勝ち負けに関わらないことを、出場した子の瞳が物語っている通りだと感じました。

彼らから伝承されていく「本気」に、応援していたわらべの子ども達、保護者から惜しみない拍手が送られました。 by さるせん

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